BEFORE 写真撮った時の露出がちょっと… ますます暗いムードになっちゃった。いや、ここまで悲しい状態じゃなかったと思うんですけど…
AFTER
朝の光の中でとったので、何かずいぶん変わっちゃったみたいに見えるなあ…まるで、中世から、ルネッサンスへの変化そのものって感じ。
すいません、いきなり結果から失礼いたします。
まず、私のアタマの中には、あるイメージが最初っからありまして、それは1800年前後の、蓋が歪んで反り上がった、明るい色のクルミの木が栗色に着色された後、所々黒ずんで、トップライトでテラっと光った所は金色、暗いところは殆ど黒に近いようなどす黒い茶色…全体に赤みの少ない黄褐色で…と言った感じだったんです。上の写真は工房のシャッターを開けて道路ギリギリまで引っ張り出して撮ったので、かなり私のイメージより明るいんですが、部屋の中ではもっと暗めに見えるはずです。いずれにせよ、光の方向によって表情を変えるのは木という素材の面白さでもあります。
もともと、ポプラは木肌の白い材で、クルミはそれよりだいぶ濃い色をしています。レリーフパネルはクルミである上に、ポプラより古く、かつては別の家具の一部(おそらく、この型のカッサパンカ)だったわけですから、その時のパーティナも残っており、まわりの色とはトーンが全く違っています。この色合いに全体を合わせて行くと、相当暗めになるはずです。
水性の染料で着色します。水性の染料にはツヤが全くありません。その後、ツヤ出しの為にゴッマラッカ(シェラックニス)や蜜蝋を塗るわけですが、その時の風貌がいまいちはっきり予測できません。たいていは明るい印象になるので、染料は少し強めに入れる方が無難です。
ゴンマラッカを3回塗りすると、こうなります。
ゴンマラッカ。英語ではシェラックと呼びます。インドやタイ原産のカイガラムシを乾燥させたものが原型です。カイガラムシはその小さな体のわりに紀元前から人間に目をつけられてしまった生き物で、当初は赤い染料を抽出する為に大量殺戮されていました。
一匹だけでうろうろしてるんなら、ちっちゃいから目立たなかったのに、この人達ったらものすごぉい集団で暮らしてるもんだから、見つかっちゃったんですねえ。ラック、っていうはサンスクリット語で“10万”という言葉から来てるんだそうですよ…私なんかだったら見つけちゃっても、もう二度と直視したくないし、全身鳥肌たってその場からダッシュで逃げますね。日本にもいるじゃないですか、枝にびっしり…
ぎょわー、だずげでー!
ああっ、あんなものを養殖してる人達がいるなんて、信じられないー!
でも、いるんです。いてくれてありがとう、と言わなきゃいけません。その、インドやタイで育つプリプリと太った
ぐわー、キモチわるぅっ彼等をビッチリ仲良く貼り付いた枝からべりべりとこそぎ落とし、日陰でミイラにしてから煮立ったお湯の中へ…水に溶け出す赤が染料です。インドじゃシルクや皮革なんかを染めるんですって。
次は、色の抜けた彼等をガンガン加熱します。熱で溶けた樹脂成分(彼等が枝に貼り付いてちゅーちゅー吸ってた樹脂です)がトローッと出て来たら細かいふるいにかけて不純物(彼等の抜け殻とか枝の繊維)を取り除くんです。それを鉄板の上に流すと、冷えてうすーい塗膜になります。このパリパリした黄金色の膜をはがしてクシャクシャに割ったものが、イタリアでは最もメジャーに使われている、“質の悪い”ゴンマラッカであります。日本では手に入りません。
日本で手に入るのは高級品と見なされている、化学溶剤を使って、段階的に枝からひっぺがしたカイガラムシ・シートの構成成分を分解して行く製法で作られたものです。ワックス成分、色素、樹脂成分、これらを4段階くらいに調整し4種類くらいの製品として販売されています。どれも皆、イタリアの物と比べてクリアーです。塗膜は薄く、非常に硬質な艶が出ます。
おそらく、これに合う家具もあるんでしょう。実際、いわゆる鏡面仕上げ(フレンチ・ポリッシュ)をやる時なんかにはこっちの方が格段に綺麗に仕上がります。
でも、イタリア・アンティーク、さらにアルテ・ポーヴェラといったら、“質の悪い”(不純物も多い)イタリア製でなきゃ、別物になっちゃうんです。これは不純物+ワックス成分の含有量が多いため、ニスになった時の溶液は粘度が高く、透明ではありませんが、塗膜としてはべっこう飴みたいな色と艶を与えます。多分これがイタリア家具のちょっと甘ったるい、人懐っこい特質に繋がる一つの要因であると思われます。
ゴッマラッカが樹脂塗料としてイタリアにお目見えするのは1600年代、ストラディヴァーリがヴァイオリンの製作に用いた頃です。イギリスはインドに植民地があったんで、もうちょい早かったようです。しかし、当時はまだ蜜蝋とかオイルで仕上げるのが主流で、ゴンマラッカが本格的に普及するのは1800年に入ってから、ニトロベースの合成塗料がお目見えする1920〜30年頃まで、ということになります。
おお…脱線しちゃった、かな?ゴッマラッカの事をあんまりちゃんと書いた事がなかったので、この機会に乗じてしまいました。
では…
ワックスをかけて、ムシクイ穴も目立ちすぎる所はふさいで、だんだん陽も傾いてきた頃、カッサパンカの表情もちょっと黄昏れ気味になっていい味出してました。
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