えーと、手順の関係で、VIIIにはまた後ほど、他の3脚と一緒に、塗膜が全部落とされた状態の時に再登場してもらう事にして、今回は他の2脚の構造的な部分の修復過程を見てみましょう。(VIIIは復活して、やっとイスの形に戻りました。乞う御期待っ!)
…というわけで、お待たせしました、エントリーナンバ−2番と3番!
IIIさんでーす! –––––––––––––––そして、
XIIさんでーす!
(さんさんって 読まないで下さいね、
テルツァさんって呼ぶ事にしましょうか…)
あー。お二人ともちょっと地面に足が着いてらっしゃらないようですねえ。なにか、こう、いつもガコガコ足踏みしてますね…。アァ、以前一度手術を受けた事があるんですか。接骨院ですか?
というわけで、話を聴いてみたわけですが、XII は軽症です。
すばらしい!200年近くも殆ど修理形跡なしなんて、よっぽど運の強い方ですな。
背と座のジョイント部分に隙間があります。試しにクランプで締めてみましたがこれ以上奥へ行きません。何でかな…、と思ったら、座面枠の中央に見える1本の棒(座面はこれと、前後の枠で支えられています)が、ちょーっと長いんです。おそらく、この部分は交換された事があるんでしょう。
もう一度ジョイントを全部分解して、組み直し、最後に長過ぎる部分を削ってこの棒を戻し、ダボで固定します。ここで使う接着剤は、全て膠です。膠を使って接着されていたところは、殆どの場合、膠でやります。多少古い膠が接着面に残っていても、新しい、熱い膠(膠は湯煎にかけて水で溶かして使います。冷えると固いゼリー状になり、さらに乾燥するとべっこう飴みたいにパリンパリンになります)がかかれば溶けて新しいのと一体化する、という利点と、
修復において重要な条件の一つである、riversibilità (リバーシブルである事、可逆性のある、という意味です)を満たした素材である事がこの天然の接着剤を使う理由です。
この、
"RIVERSIBILITÀ" とは“はめたら、また外せる。変えても、また元に戻せる” 素材を適材適所に使え、という事です。
でも、もともと一つの材であったものが割れたりした時に、接着し直したり、別の木を補足したりする場合は、“また外せ”たり”元に戻”ったりしては困るので、ボンドを使う事にしています。ジョイント部分のように常に負荷がかかるところは数十年から100年もすれば、何らかの理由でまた、外さなければならなくなる事もあるでしょう。材を痛めずに分解できる事、これは大切です。クギ、やボンドが使ってある部分の修復で、私が四苦八苦しているの、このブログを見て下さった方はご存知ですよね?
そういうわけで、XII はしっかりと地に足の着いた状態で、お風呂待ちです。
さて、III さんは… ジョイント部分がかつて壊れた、との事。
手前が III 、そして、後ろに控えるは最終エントリー、V なんですけど、彼女は次回以降じっくりと…
そう、III の座面を外すと、2つの木片でジョイント部分の補強、座面支持の強化、という一石二鳥の有効な修復が見られます。しかもこの2つの木片はダボと膠で着いています。この人は、クギの害を知っています。正しい修復です。
ダボを抜くのは決して難しい作業ではありません。ドリルでダボの入っている通りの穴をあけるだけ。穴を塞ぐ必要のある場合は、またダボで塞げばいいだけ。
この2つの木片をくっつけるのは、
修復において重要なもう一つの条件、
"prevenzione" (来るべき災害等に対する備え、予防)を満たす方法です。確かに、もはやこの歳ではそういう事も必要かも知れません。私も、4脚全てにこの方法を取り入れる事にします。ダボじゃなくて、ネジ止めにしますけど。見えないところだし、簡単に外せるし、穴も小さくて済むし、オリジナルじゃないっていう事もすぐ判るので。
ここまではいいんです。でも、何で接地が悪いんだろう、という疑問に対しては、他の原因があるはずです。
座面枠の高さが左右で違う…。
これが原因なら、一度バラさなきゃなあ…。
2つの木片を外して(けっこう大変だったけど)みたら、あらら…。
これを修復した人、ちゃんと修復してるのに、木工作業が…
ヘタ…
若い修復師なのかなあ… 修復師は木工作業に関して、早さ、正確さにおいては職人さんにはかないません。本来、家具製作において別個の、それ専門の職人さんが担当していた仕事(製材、指物、彫刻、象眼、表面仕上げ、フィッティングの制作、皮革や布、藁等の座面処理…ecc)を一応、一通り“こなせる”のが修復師です。もちろん経験を積むうちに、そのどれもレヴェルアップしていくし、いくつかの分野では専門の職人さんに迫るような技術を身につける人もたくさんいます。修復師はある意味、知識と技術をオルガナイズする専門の職人なんです。
…とはいえ、こんなんじゃ、まずいでしょ。
壊れたジョイントのオスの方、を根元から切っちゃって、ダボとかビスケットジョイナーのノリでメス側の穴より随分薄い板っ切れを差し込んであります。穴のサイズに合った板を差し込むには座面枠の材は細すぎて、強度の点で問題があると思ったのでしょう。
厚みの足りない分を薄い板を貼付けて、穴に収まるようにはなっています。多分、これで上手く行っていれば問題ないのかも知れません、外からちゃんと補強してあるし…。でも、問題は凹の角度に、凸の部分が合ってないんです。あの板っ切れを差し込む際の穴を作った時に正確な角度を掘り出せなかったようです。それでも無理矢理突っ込んで、固定しちゃうんだもん。長い間無理をかけたので、座面枠が歪んでしまっています。それで足が浮いてきてしまったんでしょう。
座面枠の凸部は背もたれの凹部に垂直に収まるようになっています。そこで座面枠ごと一部、凹に垂直に切り取り、凸部付きの木片を作ってしまいます。材のアタマとアタマ(年輪が見える所)は接着剤の吸い込みが多く接着しにくいので、これを避ける為に、材を斜めに切るわけです。垂直に…というのは、この段階で凸部の角度が決めてしまえるからです。
さらに補強の為にダボを入れて、ジョイント部分は修理完了です。
でも、歪んでしまった座面枠は、もう直せません。実際に座る部分には影響しない程度のねじれなので、御心配なく。ただ、接地の問題は解決しませんでした。
最後の手段です。"zoccolo" (ツォッコロ=木靴)といいます。浮いている足の一番下を、上からかかる負荷を分散させるように、V字型に切ります。そこへオリジナルと同じ方向性を持つ材を付け足してあげます。しっかりボンドで接着してから、正しい長さにカット、整形、と進み、接地の問題も解決しました。こんな事しなくてもたかが3ミリ程度ですから、他の3本の足を3ミリ削ればいいじゃん、という人もいますが、やらないのが正しいです。それに、けっこうかわいいでしょ?ツォッコロ。今はまだ白いから、蹄みたいだけど、後で判らなくしますね。
結局…接地に問題があって、それを解明する為にいろいろ手間かけたけど、最終的にはツォッコロだけで解決しちゃった。やらなくても良さそうな事やっちゃったような気もするけど、まあ、構造的にはすっきりしたんじゃないでしょうか。
こういう仕事はちなみに、“タダ働き”又は、“非営利文化的貢献”といいます。
実用的見地からは意味なさそうだけど、この手の家具の価値を考えると、やるべきだと、私は思うんだけどな。
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