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9年間のイタリアにおける活動の後、帰国したアンティーク家具修復職人のブログです。
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ライティングテーブル 修復してます 最終回
[
2008-12
-21 16:35 ]
ライティングテーブル 修復してます その5
[
2008-12
-21 15:07 ]
ライティングテーブル 修復してます その4
[
2008-12
-16 03:28 ]
ライティングテーブル 修復してます その3
[
2008-12
-11 02:44 ]
ライティングテーブル 修復してます その2
[
2008-12
-05 01:18 ]
ライティングテーブル 修復してます その1
[
2008-12
-03 01:08 ]
ライティングテーブルの修復を始めます
[
2008-12
-02 01:55 ]
1
ライティングテーブル 修復してます 最終回
かくして
Vaglialle の
Tavolino 君は
この極東の地で再出発することになりました。
Mさん、大変お待たせしました。どうか末永く一緒にいてあげて下さい。そしてもしイタリアへご旅行の際にはアンギアリを訪れてみて下さいね。
仕上げは Gommalacca (シェラックニス)を2回、材のバサつきを抑える目的と、甘いあめ色を与える為に塗布しました。
そのあとさらに2かい、 Cera d'ape (蜜蝋)で磨きました。シェラックのいくぶん硬質な艶を、素朴で暖かみのある少しくぐもった艶にする為と、水にはめっぽう弱いシェラックの塗装面を保護するのがその目的です。
シェラック、蜜蝋、ともに樹脂系の塗膜は、虫を寄せ付けない効果もあります。ワックスがけは、数ヶ月に一度はやってあげることをお勧めします。蜜蝋の塗膜はシェラックのそれに比べて接着力が弱いので、特に天板などは頻繁にワックスを上がけしてあげた方がいいです。ちょっとお茶がこぼれちゃっても、シェラックの塗膜まで到達しなければシミになったりすることもないので。
うーん、それにしても、このひょろひょろとなびく脚…
この、危うい均衡が彼の持ち味です。
むしろ上に重いものが載っている方がいいかも知れません。しっかり接地していれば、4本の脚は見た目とは裏腹に強靭なので安定するでしょう。もちろん揺すれば多少は揺れます。その際負担がかかるのは脚の付け根、すなわちジョイント部です。そのジョイント部を含む枠は、強化されています。机を横に寝かせて脚をひっぱたくなどの強い衝撃を与えれば、引き出しのはまっている枠の細い部分を折ることもできますが、まさか、そんなことが起こるわけないと思うので、安心して使っていただいて結構です。
あんまり過保護にしてもつまらないので…。
錠前と鍵は、アンティークのリプロダクションです。当時と同じ素材と作り方で作られています。ただ、錆びた感じは“ヤラセ”です。でも、ピカピカの鉄じゃ、あんまりにもあんまりでしょ?
虫食い穴もワックスで埋めてあります。
Ciao, Tavolino..!
お別れだね!元気でやってくれい。君がこの先、どのくらい生きて、ぼそぼそと、でも力強く1800年代のイタリアと2000年代の日本を物語っていくのかは知りようもないけど、君の存在は政治家のクサいマニフェストなんかよりよっぽど真実で、私達にいろんなことを考える機会を与えてくれると思うな…。
君は、“物”だけど、歴史の中の人間の善い意志や精神、もしかしたらあまりいただけない人間の習性なんかが形作った一つの成果です。
人の手に成る“物”を保存しようとする理由はこれに尽きると思います。
その為の RESTAURO (レスタウロ)ー 修復です。
えへっ
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ライティングテーブル
保存と修復
シェラックとワックス仕上げ
みんなの【ライティングテーブル】をまとめ読み
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by
tomoko-ingp
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2008-12-21 16:35
|
アンティーク家具修復
ライティングテーブル 修復してます その5
さて、全ての木工作業は終了しました。ここまでがいってみれば外科手術の工程でした。この先は総合エステティックの工程となります。
Sverniciatore (塗膜剥離剤)
で先ず全身を洗ってしまいます。
この溶剤使用に関しては賛否両論あるようですが、200年も経た材の表面には、30~40年やそこらの汚れが覆い隠してしまうにはあまりにも貴重なサインが刻まれている可能性があり、それは
“オリジナルを尊重する”
という、修復理論の根底に在る精神からすれば、先ずは“精査”という意味での溶剤による洗浄は必要と考えます。
例えば、この机には沢山の Stuccatura (パテ埋め)の痕があります。誰かがそんなに昔ではない時代に、虫食い痕や、材の裂け目を埋めたものです。このパテはポリエステルベースに土や石膏などの鉱物系の素材を混ぜたもので1900年も半ばになるとかなり普及しており、今だに市販されています。
古典的な Stucco (穴やヒビ埋め用のパテ全般の総称)は石膏にピグメントを混ぜて着色したものですが、乾燥後の縮みが大きいことや、周辺の材にシミが残ることなどの不利点があり、現在も改良が重ねられています。
ここで使われているパテは、“縮み”の問題をポリエステルという素材で緩和したものですが、数十年もすればある程度は縮んでしまうし、水ベースの染料が乗らない、という欠点もあります。左のような深い裂け目などへの使用は、時を経れば簡単にボロっと剥落してしまいますし、材の変色と共に白く目立つようにもなって来ます。
Stucco の最新バージョンは大きな体積でも縮みがなく、しかも接着効果があり、染料による着色も可能、という優れものですが、いかんせんまだ高価であります。私は、もうちょっと前のバージョン、2コンポーネントのもので、接着効果はないけど、収縮性無し、着色可能というやつを使います。あまり深くないひび割れや、小さな節など、構造的には問題のない箇所はそれで埋めてしまいます。でも、上のような深い裂け目はやっぱり、めんどくさくてもクルミの無垢材を象眼するとか、おがくずと糊を混ぜたパテで塞ぎます。
話が逸れましたが、溶剤で古いパテや汚れの層を一枚剥がすことで、浮かび上がってくる本当のパーティナは、
こんな手のこでゴリゴリ切った痕とかー
古いくさびが打ち込まれていた痕とか…
背負っている歴史を物語る小さなサインです。これらから、私たち修復師は
“あ、素人が自分の為に作ったものだな”とか
“この脚は元々もっと幅の広い分厚い板
(くさびの太さからして、何か別のごつい農機具か何かからのリサイクル板)
をカットして作ったな”
なんて、まあ、どうでもいいっちゃあどうでもいい事を読み取るわけです。
精査が終わり、栗色の染料で、色を調整します。やっぱり殺虫処理はしておいた方がいいので、全体に殺虫剤を塗布するのですが、これは石油ベースなので揮発が遅いんです。しかも、雨が降ったり気温が低いと3日や4日じゃ乾きません。ちょっと乱暴ですが温風を当てたりして2日がかりで乾かしました。
Sverniciatore (溶剤)は殺菌効果もあるので、引き出しの中にも使いました。でも、染み込んでしまったインクはとれません。引き出しの底にはきれいな紙や布を敷いてあげて下さいね。
新しいオーナーのMさんは、この引き出しの錠と鍵についても、最初は“不便でもいいから古い鍵穴を保存してあげたい”と仰って下さり、私とTavolino はカオを見合わせて、“いい人みたいだよ、良かったねぇ”と言ったもんです。
でも、Tavolino は、いつもお留守だった錠前用の凹みに、やっと収まるべきものが収まるのも悪い気はしない、といった面持ちだったので、古い鍵穴はいったん塞いで錠前を付ける事にしました。
ほら、鍵穴がずらされた、という事実はしぶとく残ってます。
善くも悪くも、彼に起こった出来事です。今回の修復過程で見つけたくさびの痕のようなものなんです。
さてさて、ここからはちょっとしたマジックです。あのおんぼろ机はちゃんとあるべき姿になったでしょうか…。
完成写真はページ頭にしたいので、ブログを更新しまーす
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塗膜剥離剤
穴埋めパテ
パーティナ
みんなの【塗膜剥離剤】をまとめ読み
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by
tomoko-ingp
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2008-12-21 15:07
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アンティーク家具修復
ライティングテーブル 修復してます その4
コレにー
コレをー
載っけて固定する。
天板の表は、まあまあ平らです。ちょっと手前左側の角っこだけソンブレッロみたくぺろりんっと反り上がってますが、そんなに目立ったものでもなく、写真では判んないくらい…
しかしウラは… けっこう
ボコボコ
なぜなら、4枚接ぎの板の内の一つは桑、ワインの樽木の1本をリサイクルしたものなので、中央が膨れてる(分厚くなってる)板です。コレって、やっぱり保存したいなあ。ウラが不格好でもいいでしょ?それより、桑の木が1本クルミに混じってるって、すごくトスカーナっぽいんです。あの辺のワインの樽は桑なんで…
それに、これを鉋がけして真っ平らにするなんて暴力はいやだし。それじゃ、枠に当たるところだけ、ちょっと削ったりして。
これで天板がバコバコしなくなりました。でも、ちゃんと固定しないといけません。前はクギを天板の上から、あの薄い枠に打ち付けてあったわけですが、結果は4枚の板が各々暴れて反ったり結合が剥がれてしまったり、枠だって、クギが錆びて膨れたものだから割れちゃって…
とにかく、生きてるものを無理矢理がんじがらめにするのは良い結果を生まないので、何か丁寧にお願いして、枠の上に止まってもらえる方法をとらなきゃ。
隅木を置いて裏からビス止めするやり方が一般的ですが、これは天板が比較的平らで、脚がしっかり太くて重い場合には有効です。でも、こんな頼りない細長い脚がついてるテーブルでは、天板を枠にぴったりくっつけようとすれば脚もつられて持ち上がってしまいます。結局接地が悪くなってしまうんですね。
天板に要求しなければならない事は、4枚が常に結合している事、今程度の平面性を維持してくれる事、枠から外れてしまわない事、それだけです。
らんらんらーん、かわいい木靴の行進。nottolo (ノットロ)っていいます。クリの古材でできてるのだ。
この子達とー
枠に取付けたL字のクルミ材。見えるかな、奥の方に引き出しの通路を避けて、枠に膠とビスで付けてあるんです。手前にある4つの隅木は枠と脚を補強する為の常套手段です。これも膠とビスで。強いわりに取り外しが簡単で、オリジナルの材を破壊しないで済みます。
ここへ、nottolo 達をビスで止めた天板が載るわけです。
下から覗くとこうなってます。
Nottolo はビスを中心にくるくる回ります。天板を外す時はこれらをまわしてL字の材から外すだけ。どれも軽く引っかかってるだけですが、8個のチカラはちゃんと天板を固定しています。材が湿度などの変化で呼吸し、動こうとした時、どの方向に対しても強要するチカラが少ないので、割れたりする事はないでしょう。
つい数日まではこんなガランとしたシンプルな枠だったのに…
何か随分といろいろしょい込んじゃって…。外からは見えませんけど。
文化財の修復においても、外からは判んなくても、裏側や材の中は殆どサイボーグ状態である事が多いんです。聖堂の扉や聖歌隊席など、数百年経った数百kgの木材を更に数百年生かす為、材の中に鉄骨を埋め込んだり、材のありとあらゆる動きに対応する為のボルトやスプリング…作業の最中は、新たに付け加えられて行く素材のあまりの違和感に戸惑いましたし、ここまでして、古物にしがみつく執念にちょっと食あたりに似た感覚を覚えたものです。
朽ちて行きつつあるものを、最終的には“朽ち果てるもの”として愛でる感性と、愛でる事によって“朽ち果てさせまい”とする感性では、おのずと“物”に対する態度が違ってきます。ヨーロッパ世界で保存・修復が、概念においても技術においても確立し、発展してきたのは紛れもなく、後者の感性によるものです。前者のそれに比べると、所詮抗い得ない力に対抗しようとする不様な人間の抵抗、といった感じですが、この対照には、日本とヨーロッパ・キリスト教圏の間における自然観、宗教観、果ては愛の概念にまで及ぶ相違が浮かび上がってくるようで、非常に興味深いと思います。
今でも私はネジという素材がこの手の古物に(たとえ見えない所であっても)使用される事自体を美しいとは思っていません。ただ、この小さな書き物机が生まれた時から刻み込まれてきた様々な人間の精神や意志を保存する為の手段として有効であるとは思うんです。
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保存と修復
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修復理論
みんなの【保存と修復】をまとめ読み
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tomoko-ingp
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2008-12-16 03:28
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アンティーク家具修復
ライティングテーブル 修復してます その3
今日は引き出しを見て見ましょう。
この引き出しは、前板以外はポプラ材が使われており、前板はクルミ材ですが、構造的に100年以上は保ちません。右の写真はひっくり返した状態ですが、このように底板が枠の上に釘付けにされています。これでは、材は身動きが取れず、結局は割れたり枠ごと歪んだりしてしまいます。
こいつをもう100年生かすには、別の構造にする必要があるでしょう…。 面倒ですが、その方がいいでしょう。
引き出しの開き干し
クギは全部抜いてー
割れや欠けは補修してー
両サイドの枠は1cmほど底上げして(材を付け足して)溝を掘っておきます。ここへ、底板をスライドさせてはめ込むためです。こうやっておけば、そこ板は溝の中に収まっている範囲内では自由の身です。
枠の後ろの板は、組継ぎなしの釘止めでした。底板が枠にべったり打ち付けられていた時はこれでも良かったのですが、今は枠だけでしっかり引き出しの形を維持してくれなければなりません。ジョイントを作ってあげました。
前板はやはり、開閉の度に力のかかる部分です。膠だけで組んでおくのは不安ですから、鉄のクギを抜いた後の穴に
木製のクギ
を作って打っておきます。
枠は膠を使って接着します。ボンドでやっちゃうと後で何か起きて、バラしてなおそうとしても厄介な事になるので、膠を使います。
さて、駆け足で補修の工程を説明しました。
ここで、前回、天板を補修しながら、古いクギ(断面の四角い、鉄を打ち出して作られたもの)の痕と、その後打ち直された初期工場生産製の釘について触れたこと、思い出して下さい。それで、この天板はかつて一度取り外されていた事が判りました。
何の為に天板を外す必要があったのでしょうか。
それはどうやら、引き出しをつける為だったようです。
修道僧、フラーテ・アントニオ
(勝手につけただけです)
はある日、使い慣れた古い書き物机に向かって本山に当てた手紙を書き終えて、ふと考えました。
(勝手に想像してるだけです)
“もし、この机に小さな引き出しでも一つあれば、こういう便箋やらインク壷をしまっておけるんだけどなあ”
そこで、寺男のルチァーノを呼んで、適当な板きれを探してもらうことにしました。
翌日、ルチァーノは、アンギアリの職人に見繕ってもらった引き出し用の端材を持ってやって来ました。
かつてはドレッサーかなんかに付いていたような引き出しの、鍵穴のある前板と、ポプラの板切れ数枚、これだけあれば立派な引き出しが作れます。
こうして、出来上がった引き出しは、
鍵穴と錠前を埋め込む凹みはあるものの錠と鍵は付いていませんでした
が、とりあえず書き物机に設置することにしました。
先ず、天板を外し、正面の枠板を、引き出しがすっぽり収まるように切り取りました。フリーハンドで切ったので、向かって左側がちょっぴり下がり気味になってしまいましたが、まあ、これもご愛嬌です。
引き出しを滑らせる為のレールが必要です。けっこうアバウトな性格だった彼は、ごくシンプルにその辺にあった
モミの角材を、前と後ろの枠板に下から打ち付けて渡すだけ
で済ませてしまいました。
さて、これで念願の引き出し付きの書き物机が出来上がったわけですが、問題は引き出しをどうやって開閉するか、です。把手をつけようにも適当な物がありません。
結局、今のところは保留にして、この部屋の鍵を共用する事にしました。
錠がなくても、鍵穴に入る鍵さえあれば、90度まわして引っ張れば鍵は前板に引っかかるので引き出しは開きます。慣れてしまうと案外便利な事に気付いたフラーテ・アントニオは、錠前なしの引き出しをけっこう満足して使っていました。
この話は全てフィクションであり、人名は実在する人物の物ではありません
すみません、いい加減な事を…。こんな事もありうるかな、って事で…。
とにかく、この引き出しは使われている釘のタイプ(丸釘)が、天板に打ち込まれていた新しい方のクギと同じ物である事から、天板を取り外した原因であると思われます。
構造的にも、本体側の引き出しの“受け”はムリがあり、長年の使用に耐えられる物ではありません、明らかに後付けした物です。
錠と鍵は付いていませんが、これは、引き出しがこの机のために作られたときから無かったと思われます。この錠は鍵を回すと上へ鉄の板が持ち上がり、天板の裏、または引き出しがはめ込まれる枠に掘り込まれた凹みに入る事でロックされる仕組みなのですが、この机の天板の裏にはこの為の凹みらしき物すら見つかりません。この前板は、もっと古い時代の、別の引き出しからのリサイクルで、錠と鍵は既に消失していたと観るのが自然でしょう。錠前なしの鍵穴に別の鍵だけを入れて引き出しを開ける…これは錠前が壊れてしまった場合とかに実際、よくやるテです。この場合の鍵は穴に収まれば何でもよく、厳密には“鍵”ではなく“鉤”の役割を果たすわけですが。
そうなると、前板の裏側、鉄の鉤で始終ガツガツ引っ掻かれることになる穴の周りが摩耗していきます。この引き出しは軽くて小さいので、大きなダメージはありませんが、穴の周りは黒ずんで擦り減っています。もし、錠が在ったらこういう痕跡は残らないはずです。
この Tavolino 君は、1850年代に引き出し無しのごくごくシンプルな書き物机として作られ、1875年頃に引き出し付きのそれへリフォームされた。引き出しも、1875年頃に新たに制作された物でなく、かなり古い家具からリサイクルされた材を使っている。
という事が言いたかっただけなんですけどぉ…
でも、おもしろいでしょ?こんなちっぽけな机にいろんな人の存在が関わった痕跡が残ってるって。今は私が関わってるわけですが、あと1週間もすれば、Mさん、あなたがこのちっぽけな物の歴史に関与する十数人目(位かなー?)になるわけです。塗り替えちゃおうが、落書きしちゃおうが、焚き付けにしちゃわない限りは彼の歴史は更新され続けます。どんどん使い込んであげて下さいね。壊れたって私が生きてる限りは永久保障しますから、ダイジョウブ。
とはいえ最初から、壊れてもいいや、ってわけにも行きません。
引き出しを受ける、本体側の構造はこれじゃ使い物になりません。フラーテ・アントニオには悪いけど、リメイクします。外見は殆ど変わらないから、勘弁して。
引き出しのガイドとなる枠をクルミの古材で作ってあげました。この枠は引き出しのガイドとしての役割だけでなく、テーブル本体の枠組を補強するのにも効果的でしょう。
引き出しが滑ることになる、縦方向に置かれている材は、簡単に取り外せます。摩耗して引き出しの滑りが悪くなったとき、簡単に交換できるようになってます。
横方向の材、テーブルの前後の枠にくっついてるやつは、膠とネジで止まってます。これもオリジナルの材にダメージを与える事なく取り外せます。ただ、後ろ側の枠板は反りがひどくて、横棒がぴったり密着できない状態だったので、例のやり方で反りの修正をしました。
何だかんだ沢山やる事があります…。引き出しがちゃんと収まって、天板を乗っけてみて、やっと全容が明らかになってきました。後は、天板をどうやって枠に取り付けるか…けっこう厄介な問題です。ま、次回をお楽しみに、ってとこです。
Mさん、錠と鍵、どうしましょう。サイズの合うのは私、持ってるんです。ただ、鍵穴をずらさなきゃなりません。ご提案できる2つの可能性は、
1、錠と鍵をつけて、古い鍵穴を塞いで新しい鍵穴を開ける。
2、新しく把手を付ける。
…のいずれかですね…。把手をつける方をお望みでしたら、手持ちのサンプルの中から選んでいただけます。大した種類もないんですけど、一応アンティークのリプロダクションなので、とんでもなく違和感のある物じゃないと思います。
よろしくご検討お願いしまーす。
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by
tomoko-ingp
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2008-12-11 02:44
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アンティーク家具修復
ライティングテーブル 修復してます その2
さて、今日は天板を見てみましょう。
天板は4枚の、様々な幅の板をはぎ合わせたもので、濃い色のクルミの板1枚、明るい色のクルミが2枚、何故か桑の板が一枚混ざってます。
一番幅広のクルミの板は反りまくっていて、両隣の板から外れてしまっていました。
暗い色のクルミの板は、両角が欠けています。片方は燃えてしまったようで断面は焦げて炭化しており、もう片方の角は恐らく落下物が直撃したと見えてバキッと折れてしまっています。桑の板は、おそらくワインの樽の一部をリサイクルしたものだと思います。裏から見ると板の中央が膨らんだ形をしているからです。この辺一帯はワインの熟成樽にクワ材が使われていた事からも推測が容易なんです。
と、まあ、こんな具合にその辺で調達できるものを繋ぎあわせて作ってあるんですね。これは田舎のラスティックな家具の醍醐味です。
しかし、あまりにも歪んでいたり、バラバラでは使い勝手も、見てくれも悪いので、手間暇をかけてあげようと思います。
反りはいつもの方法で矯正しましょう。
角の欠けてしまった板も、ダメージの新しい方は古材を補ってやる事にします。でも、焦げてしまっている方は何となくチャーミングかな、と…、思うのでそのままで行ってしまいましょう。
とりあえず、4枚を接着し直してみました。
…うーん、クワ材の両端は何だってこんなにクギ穴が多いんだろう。ちょっとあんまりにも穴だらけでかっこわるいわねー。
もちろん、必要のないクギ穴はストゥッコ(パテ)かワックスで埋めるんですが、やはり左のような感じになります。これが集中して5個も6個もあれば目立つでしょ?だから、やっぱり、まとめて
象眼を入れて補修
してしまいましょう。
さーて、どんなカオになったかな?
今はスヌーピーとウッドストックが白っぽく浮き上がってますが…
色を調整すれば目立たなくなります。パテ埋めのシミが集中しているよりは味わいがあると思うけどな?
中央の焼焦げは、温石(灼けた石を分厚い布や陶器の容器に入れて暖をとる為の、カイロのようなもの)をうっかり置いてしまった痕かな。よくあるキズです。象眼を入れて補修してしまう事もできますが、温石なんて今はもう使われていない道具を物語る生き証人として、私は象眼による補修よりも価値があると思うので、保存する事にします。
ねえ、Tavolinoくん、そう言えばね、君の新しいマンマは、君の美しさをちゃんと解って下さる人のようだよ。“意図的に作ろうったって作れる形じゃない”って。
そうですよねえ。そういうことなんでしょうねえ。ありがとうございます、Mさん!
クギ穴を埋めながら、一定間隔で
古いクギ
、(断面が四角い、手作りの鉄釘)が打たれていた跡をみつけました。これで、このテーブルは1875年以降に作られたものではない事が判明しました。
私がこの天板を解体した時に抜いたクギって、確か全部アタマがタイコ型してて、断面は普通の円、初期工場生産の釘だったんだよね…
さてはこの天板、過去に一度外された事がありますね!?なんの理由で外したんでしょうねえ…
ま、それもそのうち解るでしょ。
保存するPATINAと除去してしまってもよいPATINAを判断するのは結構迷うところです。木工作業の段階で、仕上げの塗装後をイメージしながらそれを一応決めてはいきますが、最終的に美しくならない場合、その判断は適切でなかった事を意味するものだと信じているので、染料で色のバランスを合わせた段階で、また、木工作業に戻ってやり直す事もあります。セオリーなんて、一番重要な意味での修復においては無いと言っていいでしょう。個体ごとの美しさと、存在の意味を理解する事、これが“修復”です。
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tomoko-ingp
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2008-12-05 01:18
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アンティーク家具修復
ライティングテーブル 修復してます その1
改めて紹介しまぁす。Tavolino 君です!
がーん…
何だかさっぱり判んないー
やっぱりあなた、アンギアリにいた方が良かったんじゃ…
いやいや…君はまだまだこの世に存在できるんだから、わたしら生身の肉体とは違うんだから、ここで再出発してみてよ。アンギアリだったらこれでやってけたかもしれないけど、ここでこのままじゃ、
タダの焚き付けよっっ!
大丈夫、一つずつ解決していこうね…
屋根が落っこちて来た時、先ず、ジョイントの部分がバリッといっちゃったのね…でも、かえってその方が良かった。ジョイントがしっかりしてたら脚が折れたか、天板に大穴があいてたに違いないもの。
しかしこの華奢な脚がよく折れなかったわねえ。
脚に使われているのはクリ材です。こんな風に角が削られているのは丸太の外側(樹皮に近い方)の柔らかい(若い)層が虫に喰い尽くされているからです。残った部分は非常に硬く、しまっているのでそう簡単に歯が立ちません。まるで鹿とかヤギの脚みたいな形に残っています。強度に問題がなければ、これも印象的な
Patina-パーティナ
として残してやりたい感じです。
メッキリいっちまったジョイントはクリの古材を使って補修します。
ここで注目すべきはジョイント部の補強に木のクギが使われている事です。
このやり方は古く、年代鑑定の為の一つの情報になりえます。
それからこっちの、削れて、見るからに頼りなさそうな脚…どうしようかな。
虫に喰われてスカスカになってる部分は除去してしまいます。そこへまた、クリの古材を補ってやるわけですが…
結局、この動物の細く強靭な脚のような感じは残す事にしました。実際、か細く見えても骨みたいに硬いんです。
引き出しのはまってる前板も割れてぶら下がってる状態です。
この前板を含む、4辺の枠はクルミ材です。やはりクルミの古材を使ってすっきり、補修してしまいましょう。
さて、ここまでで天板と引き出し以外の構造部を組み直す事ができる状態になりました。
…まるで風になびいているような4本の脚。(写真は後ろ姿です)
しかし、ジョイントをクランプで固定した状態で揺すってみるとびくともしません。しかも、天板の載る枠は完璧に水平なんですよう!こんなグニャグニャに曲がった材を使って、水平、垂直を保ってるなんて、ちょっと感動的だあ…
この危うい均衡は彼の持ち味です。私はこのキャラを保存しようと思います。
ほんとは4本の脚の下の方に横棒を渡したりすれば、強度は上がります。でも、印象が大きく変わる事は間違いありません。天板に近い方を何らかの形で強化するだけに留めたいです。重いものを乗せたまま引きずったり、天板の上でツイストを踊ったりしなければ、大丈夫な程度にはなるでしょう。
きょうはここまでにしまーす。今後は、天板ー引き出しー全体精査ー仕上げ と、こんな感じで進めていきます。
さて、何が出てくるやら、ふふふ…
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tomoko-ingp
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2008-12-03 01:08
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アンティーク家具修復
ライティングテーブルの修復を始めます
アンギアリ市の周辺に点在する小さな集落、かつてこれらは全て封建領主達の居城を中心とする城塞都市でした。このような小さな国々は外国や近隣の勢力からの侵略に対抗する為にお互い協力しあって共存していく必要がありました。
現在のアンギアリ市の構成も、ほぼ当時の共同体と変わっていません。
右図は1600年代の各城塞都市とそれらを結ぶ道路、誰が、どの畑を管理していたか、が記されているものです。丘の斜面を占める黒い森、ここには今も樹齢千年を超えるようなクリの巨木が立ち並んでいます。
秋の夜、森の方からどーんという、地響きにも似た轟音がする事があります。樹齢何百年というクリの木が、自分のつけた実の重さに耐えかねて枝ごと裂けて倒れる音です。しかしそれはこの樹の最後ではありません、春になればその裂け目から新しい枝が伸び、それがまた太い幹となります。そうして、樹齢千年の樹ともなれば、その姿はまるでお化けのようで、昼間見てもちょっと怖いようです。
Vaglialle (ヴァリアッレ)、我らがライティングテーブル君が生まれて育った場所も、そんな森をすぐ真後ろに控えた丘の斜面に建っています。12世紀に建設されたこの城塞都市の一番東に位置するロマネスク様式の教会堂、San Biagio ( サン・ビアージオ)教会、ここが彼の家でありました。
1900年代にはもはや無人となっていたこの教会堂も、1800年代迄はまだカマルドリ会の僧侶が修道生活を送っていました。もともとカマルドリ修道会というのは、集団で修道生活をしているというよりも、独りで、人里離れた自然の中に身を置いて、修行するのが常で、この栗の森の中にも小さな庵を見つける事ができます。それでも1日の内、陽がある間は、この Vaglialle のような集落へ降りて来て農作業をしたり、神父としての仕事をしたり、野山で摘んだ薬草を使って村人を癒したりしていたようです。
この粗末なテーブルも、そんな僧侶が里へ降りて来た時に使っていたものなのでしょう。年代的には1875〜6年位だと思います。写真ではやっとこさ立ってるように見えますが…、そうです、やっとこさ "立たせて" あるんです。何しろ全壊してるんです。
2003年の夏の終わり、夜中に森の方からどーんという轟音がして、“栗の木が倒れるにしちゃ、まだ時期が早いな”と思い、翌朝自転車で森の方へ行くと、もう、役場の人やら建築家やらが沢山来ていて、" Vaglialle の教会の屋根が落ちた”と聞かされました。
私は個人的にこの教会が好きで、つい数日前にも、クルミを拾いに来たりしていたのに…
数日後の撤去作業の日々には町の修復師も立ち会って、堂内の備品を引き取る事になりました。私達の工房には説教台が割り当てられ、
ただただデカイだけで色気も何もない…って、文句言っちゃぁいけましぇん
あらかたの備品が持ち出された後、瓦礫に埋まったこのテーブル君の脚を見つけた私は、
“ここに何かあるけど、いいの?”
— “ほっとけよ、大したもんじゃないだろ”
ー “じゃあ、私がなおすから、持ってってもいい?”ー
というわけで、ぺっちゃんこにはなっていたものの、パーツだけは一応回収しました。アンギアリへ帰って老修復師のトニーノに見せると、“材がいいから、脚も折れてないし、かわいいのを見つけたな。でも、なおすの大変だぞ。”と言いました。
その後は学校も始まって、飛び級審査の為の試験と、卒業試験で地獄のような1年を過ごし、このテーブルはガス室(ムシクイがひどかったので)に入りっぱなしで数年を送るハメになってしまっていたのでありました…。
そのかわり、虫はもういませーん。ご安心下さい。
里親になって下さろうと申し出て下さったMさん、大変お待たせしました。
また明日もよろしくお付き合い下さいますよう、よろしくお願い致します。
HP・
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タグ:
アンティーク家具
家具修復
イタリア文化
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by
tomoko-ingp
|
2008-12-02 01:55
|
アンティーク家具修復
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